なぜ、非定常熱湿気同時移動解析プログラム“WUFI(ヴーフィ)”が必要なのか

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建物構造は決して、完全に乾燥することはありません。周囲の環境によって、一年を通して含まれる湿気の量は変化します。そしてそれは建物構造の中の湿気がどのように輸送され、または蓄えられるかによっても変わります。構造に含まれる湿気の量が多くなっても、害が生じない程度であればいいのですが。

部屋の中と外の気候の違いが、湿気の流れを引き起こします。中央ヨーロッパの典型的な気候では、湿気はおおよそ、部屋の内側から外側に向かって流れます。しかし外側の温度が高い場合や、室内を冷房している場合には、湿気は部屋の外側から内側に向かって流れます。特に外側の建材が、雨水を吸収しやすいと、より多くの湿気が構造の中に入ってきます。また、構造の中や外皮の表面でできた結露や、空気の対流により表面に運ばれる湿気、地面に含まれる水分も、構造の中に湿気が入ってくる原因となります。よって、入ってくる湿気と、出て行く湿気の量がつりあっていることが大事で、構造の中の湿気の量が、年間を通じて長時間、基準値を超えることがあってはなりません。DIN 4108-3(DIN:ドイツ工業規格)では、定常計算によって構造の中の温度と湿気の分布を算出するGlaser法に基づいて湿気のバランスについて言及されています。しかしGlaser法は、冬の結露量のみを評価基準としていて、他の多くの重要な要因が考慮されていません。それに対して熱湿気シミュレーションは、ほぼ全ての重要な要因を考慮していて、構造の中の湿気性状をより詳しく、正確に把握することができます。よって、防湿計画のためにも、または施工後に生じた湿気の害について分析し、その原因を探ることができます。このシミュレーションに関しては、DIN EN 15026(EN:欧州規格)に記述されています。

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ここに、Glase法と熱湿気シミュレーションの違いについて述べ、シミュレーションが設計現場と専門家にどのように役に立つのかを記します。

Glaser法(定常) Vs. 熱湿気シミュレーション(非定常)

ドイツでは、建物構造の防湿に関する判定について、DIN 4108-3に規定があります。この規格の中では、降水から建物を守るための指針と、冬の結露を抑えるための判定方法が記されています。

この方法では、グラフを描いて、または計算によって、一年間で建物構造の中に入ってくる、または構造から出て行く湿気の量を見積もります。室内側と室外側の気候条件として、温度と相対湿度を与えます。しかしこれらの条件は、なるべく現実的となるように考えられていますが、実際には、湿気による害がないことが既に確認されている構造がGlaser法による判定で可となり、問題がある構造に対しては、判定が不可となるように決められています。よって、周辺条件は、現実的であるとは言いがたいものとなっています。例えば夏の室温が12度となっていますが、夏にこれほど低温な住宅があるでしょうか。また、その他の気象要因、例えば日射や風、降水や長波長放射などは考慮されません。つまりGlaser法では、冬季に湿気が溜まる現象と、夏季に乾燥する現象、そしていずれも水蒸気の輸送のみが考慮されています。

にもかかわらずGlaser法は長年にわたって使われ、この方法によって優良と認められる構造が、良しとされてきました。それらの構造はつまり、施工時に含まれる湿気や雨水の浸入や、日射による影響をほとんど受けないような構造です。しかし、外側も内側も湿気を通さない木造の屋根は例外です。そのような屋根構造は、Glaser法による判定では良しとされますが、実際には多くの害が生じています。なぜかと言うと、判定では構造の防湿性が充分であり、建材ももともと乾燥していることを仮定していますが、実際には、現場での施工がこのように完璧であることは保障できません。もし、湿気が少しも浸入しないのであれば、乾燥しにくい構造でも問題はありませんが、施工時に湿気が含まれていたり、防湿施工が完璧でなく湿気が浸入するような場合には、害が生じます。

その他の多くの構造タイプも、規格に定められている適用範囲外であるためにGlaser法による判定を免れるか、構造の安全性を証明する義務を免れています。Glaser法による判定を免れる場合とは、Glaser法が考慮しない要因や気候要素の影響が大きい場合です。例えば、施工時に湿気が含まれる場合や雨水を吸収する場合、または外気候が通常とは異なる場合や、屋上緑化、冷房をしている部屋や、オフィスや居住以外の目的の建物などです。証明の義務を免れる場合とは、Glaser法による判定では不可となるかもしれませんが、実際に長期間、問題がないことが明らかになっている構造です。

熱湿気シミュレーションは、建築物理的に重要な要因がくまなく考慮される物理モデルを使って、実際的な熱と湿気性状を把握することができるので、Glaser法の限界を補うことができます。また、Glaser法を指定しているDIN 4108-3でも、2001年の改定からは、Glaser法による判定ができない構造については、熱湿気シミュレーションをすることを推奨しています。当時、シミュレーションは真新しいものでしたが、今となっては、ヨーロッパ規格であるDIN EN 15026(2007)でも規定され、ますます広く使われています。

熱湿気シミュレーションでは、Glaser法による湿気の流出入だけではなく、次のような要因や周辺環境が考慮されます。

・雨水の吸収と液体としての水分の輸送

・保湿性能および施工時に含まれる湿気

・蓄熱性能

・湿気が断熱性能に与える影響

・調湿性のある防湿シート

・氷結および蒸発

・日射による温度上昇

・長波長放射による放射冷却と結露の発生

信頼できる計算結果を得るためには、ふさわしい建材データが必要です。シミュレーションに使う建材データには、Glaser法に必要なデータの他に、含水率曲線(相対湿度と含水率の関係)、液水輸送係数、熱伝導率や透湿抵抗係数の温度依存性に関する情報が必要です。湿気による害は、一日の間の外気条件の変化によってもたらされる場合もあるので(図1)、通常は1時間間隔の、計算する地域の気象データが必要です。気象データには、検証するテーマに合わせて、温度と相対湿度の他に、日射、風、降水量、大気放射のデータがそろっている必要があります。室内気候には、測定データや部屋の使用状況を反映する室内気候モデル、または設計値を与えます。

「熱・湿気シミュレーション-防湿計画と湿気による被害評価のための使い方」より(一部翻訳)
原著:Daniel Zirkelbach 翻訳、加筆:田中絵梨
Fraunhofer Institut for Buildingphysiks(フラウンホーファー建築物理研究所)
 
湿気の害について(フラウンホーファー建築物理研究所)

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湿気による害~湿気が多いと、省エネルギー性が悪くなる

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湿気による害を予測し、湿気による害のない家作りとそのためのシミュレーションが必要です。

WUFI Seminar2014は、高気密・高断熱、パッシブハウスなどの家づくりを行うにあたって設計士・工務店・メーカー・デザイナーにとって必要な情報と計算するプログラムを提供します。

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日本語版WUFI Seminar2014 東京開催について

WUFI Basis – Seminar 2014(ベーシックセミナー)

2014年7月15日(火) 機械振興会館 6階62会議室

10 : 00 開 場
10 : 10 ~ 10 : 30 WUFIのインストール
  (Windowsのノートパソコンをご持参ください)
10 : 30 ~ 11 : 00 WUFIについて
11 : 00 ~ 12 : 00 WUFIの入力方法について
  境界条件、表面条件、初期条件
12 : 00 ~ 13 : 00 昼 休
13 : 00 ~ 14 : 50 実 習   WUFIを使った代表的な構造の計算
          ・壁の計算と判定
          ・施工不良で防湿層に穴が開いた場合の計算
          ・台風等で雨が構造内に入った場合の計算
15 : 00 ~ 16 : 00 実 習   WUFIによる屋根・床・地下室の計算と判定
16 : 00 ~ 16 : 30 質 疑
16 : 30 終 了

参加費用  20,000円(WUFI Pro5.3Ver(日本語) 8週間ライセンス付き)

早割 6/30までのご入金/複数割(同一企業で複数参加) 15,000円

 

WUFI Update – Seminar 2014(アップデートセミナー)

2014年7月16日(水) 機械振興会館 6階62会議室

10 : 00  開 場
10 : 10 ~ 12 : 00 実 習   受講者からの要望に合わせた計算(事前6/30迄)
12 : 00 ~ 13 : 00 昼 食
13 : 00 ~ 14 : 30 実 習   建材データの入力
14 : 40 ~ 16 : 00 実 習   各種出力(ASCIIエクスポート、動画作成など)について
16 : 00 ~ 16 : 30 質 疑
16 : 30  終 了

参加費用  30,000円/人(WUFI Pro5.3Ver(日本語) 8週間ライセンス付き)

複数割(同一企業で複数参加) 25,000円/人

早割(6/30までのご入金)   25,000円/人

*複数割(同一企業で複数参加)+早割 20,000円/人

Basis-Seminar2014とUpdate-Seminar2014 2日間参加の方

参加費用 40,000円/人  早割(6/30までのご入金) 35,000円/人

 

WUFI Seminar2014 東京 受講パンフレット.pdf

WUFI Seminar2014 東京 受講申込書.pdf