海外の文献紹介③

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4. 施工不良も考慮して安全な計画を

構造の防湿計画を行う際に、防湿施工が完璧で、材料がもともと乾燥していることを前提にすることは、あまり意味がない。そのような前提のもとでは、外から湿気が入ってこないために防湿性が高いほうがいいという結果になりやすい。しかし実際には、防湿性が高いがゆえに、建材の中から外へ湿気が逃げにくく、どちらかと言うと湿気による害が起こりやすい。

防湿設計の原則は、必要なだけ防湿性を高く、しかし同時に、必要なだけ湿気を通しやすくすることである。そうすることで、施工不良によって予期せぬ湿気が入ってきたとしても、その湿気を外に逃がす可能性が確保される。

4-1. 施工時に含まれる湿気

どれだけの湿気を逃がす能力を確保するべきかを検証するためには、実際に施工直後に含まれる湿気を考慮する必要がある。そのためにシミュレーションでは、初期含水率(計算を始める時点で含まれる湿気の量)を高く設定する。例えば、レンガや雨水を吸収した木材などは、施工時に多くの湿気が含まれている。このような初期に含まれる湿気は、構造に害を与えることなく、外に排出されなくてはいけない。また、シミュレーションでは、施工後も空気の流入とともに入ってくる湿気や、雨水が構造内部に浸透する現象なども考慮することができる。

4-2. 対流による湿気の流入

木造構造は、完全に気密にすることはできない。室内と屋外の圧力差によって、常に空気が構造の中に浸入する。特に冬季は、温かい空気が建物の上部にたまり、最上部の構造体(天井または屋根)の室内側から、構造の中に空気が浸入する。浸入した空気が、構造の外側に移動するに従って次第に冷やされ、室内空気の露点温度を下回ると、構造の内部で結露が発生する。(図3参照)

図3:熱的な浮力によって生じる、建物の内外での圧力差(左)。隙間から浸入した湿気が、構造の中の低温側で結露となる(右)

空気と一緒に入ってきた湿気もまた、外に出て行かなければいけない。木造では、このような空気の浸入を完全に防ぐことはできないため、DIN 68000の改訂版では、この現象をきちんと考慮して熱湿気シミュレーションを行うことを求めている [8]。WUFIでは、この現象を、非定常の湿気浸入モデルを使って考慮することができる。つまり、空気とともに浸入する湿気の量を、構造や気候条件に合わせて算出し、それを湿気の発生源として、構造の中の特定の場所(設計者が決める)に与える。

図4:外側も内側も防湿性が高い、木造陸屋根における外側の構造木材(OSB)の中の含水率。室内の湿気負荷に4つのバリエーションを与えてシミュレーションを行った結果の比較。左は完全に防湿であるという仮定で、全ての条件で問題はない。右は湿気の侵入を考慮した結果、全ての条件で含水率が上昇した

図4は、外側も内側も防湿性が高い、木造陸屋根における外側の構造用合板(OSB)の中の含水率を示している。室内の湿気負荷(室内で発生する湿気の量)に4つのバリエーションを与えてシミュレーションを行った結果を比較している。完全に防湿であると仮定すると(左)、OSBの中の含水率は14から16質量%であり、問題がない。しかし湿気の浸入を考慮すると(右)、この構造の湿気を逃がす能力がいかに小さいかが分かる。わずかな湿気の浸入がある場合でも、木材の中の含水率が上昇し続け、つまりこの構造は施工不良が決して許されない、ということになる。

4-3. 雨水の浸入

外壁に当たった雨水が窓の接合部などから構造の中に入りこみ、外断熱工法の断熱材の外側やサイディングの裏を流れ落ちることがある。これが原因で、北米や北欧で、湿気を通しにくい断熱材を使った木造構造、つまり入り込んだ湿気が外に出にくい構造の建物で、多くの被害が生じた。そのため、北米のASHRAE Standard160では、接合部の施工を念入りに行うことに加えて、外壁に当たった雨量の1%が構造の中、具体的には断熱材の外側、に入り込むことを考慮してシミュレーションを行うことを定めている [6]。このようにして入り込んだ湿気をも外に逃がすことのできる構造であれば、湿気に関して安全であることを保証できる。この1%という量は、多くのバリエーションでシミュレーションを行い、実際に、雨水の浸入による害があった構造と同様の結果となるようにして求められた値である。北欧での検証でも、この1%という量は妥当であることが確認されている。

図5に、雨水の浸入をさまざまに考慮してシミュレーションを行った結果を示す。グラフの横軸は経過時間、縦軸は鉄筋のある場所の相対湿度である。構造は、断熱層をコンクリートで挟む、いわゆるサンドイッチ工法の外壁とし、断熱材は、左側がEPS(ビーズ法発泡スチロール)、右側がロックウールである。太線は、雨水の浸入がないと仮定した場合で、これによると初期に含まれる湿気が、素早く外に逃げ、乾燥していく結果となった。鉄筋のある場所の相対湿度が80%以下であれば、鉄筋の錆びが進行するリスクはないと言える。細い線は、浸入する雨水の量をさまざまに変えた場合の結果であり、透湿性のあるロックウールでは、基準値となる80%を明らかに下回ることが分かる。一方、透湿性がほとんどないEPSでは、浸入した湿気が外に出ることができない、または長時間かかるため、相対湿度が90%から100%の間となり、錆びが進行する。

 

図5:EPS(ビーズ法発泡スチロール)(左)またはロックウール(右)を使用した湿式外断熱構造のコンクリート躯体内の鉄筋がある場所における相対湿度。外壁に当たった雨が構造の中に浸入する量にさまざまなバリエーションを与えた。

参考文献
[8] 2012‐DIN 68800‐2: Holzschutz Teil 2: Vorbeugende bauliche Maßnahmen im Hochbau..
[6] 2009‐ASHRAE ANSI Standard 160: Criteria for Moisture‐Control Design Analysis in Buildings..

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