海外の文献紹介

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フラウンホーファー建築物理研究所
田中 絵梨 ※3

訳者より

建物の省エネルギー対策として、日本でも建物外皮の高気密、高断熱化が進んでいる。高気密、高断熱化は、室内の温熱環境の改善や冷暖房エネルギーの抑制という観点では、(正しく計画および施工されれば!)大変有効である。しかし、湿気の観点から見るとどうであろうか?気密性を高めると、建物外皮の外側と室内側の間を通る空気が遮断され、空気と一緒に構造を通過し、外側または室内側に排出されるべき湿気の流れが滞ってしまう。すると、壁体内で結露が生じ、それが木材の腐朽につながるリスクが高まる。また、重量構造において断熱性を高めると、内断熱の場合は躯体の外側と内側の温度差が小さくなる。冬場は、温度差が大きければ、温度の高い室内側の水蒸気分圧が高くなり、低温側、つまり水蒸気圧が低い外側に湿気が排出される。つまり、内断熱をすることにより、冬場は外側に排出されるべき湿気が排出されにくくなる。外断熱の場合は、冬場は外表面の表面温度が、断熱をしていない場合に比べると低くなり、露点温度を下回ると外表面に結露が生じ、藻類が繁殖しやすくなる。その結果、表面が黒ずんでしまい、美観が損なわれる。このように、よかれと思って施した高気密、高断熱化が、思わぬ湿気の害を引き起こすことを知っておかなくてはならない。よってドイツでは、建物のエネルギー・コンサルタントの資格を持つ人が、湿気に関する知識を取得することは重要であると考えられ、そのためのセミナーが、在ドイツ、フラウンホーファー建築物理研究所で開催されている。また、アメリカのパッシブハウス研究所(PHIUS)は、パッシブハウス※1としての認定を行う際に、建物の省エネルギー性だけではなく、湿気による害がないかどうかも審査している。日本では、このような体制が整っていないのが現状である。

さらに日本では、実務者が建物外皮の湿気性状を把握することができるプログラムが普及していないが、欧米では、DIN(ドイツ工業規格)やEN(ヨーロッパ規格)、ASCHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)などの規格で、熱湿気シミュレーションの重要性が明記され、場合によっては義務化されている。また、より現実的なシミュレーションを行うために条件の整備が進められ、これらの規格は改訂を重ねている。

建物外皮の中の熱と湿気の動きを非定常でシミュレーションするプログラムとして、WUFI(ヴーフィー)というプログラムが国際的に使われている。WUFIは在ドイツ、フラウンホーファー建築物理研究所で開発され、1995年の発売以来、常に新しい知見を取り入れてアップデートを続けている。WUFIの開発グループの主任であるDaniel Zirkelbach氏※2が記したレポート [1] を、ここに日本語にして紹介する。このレポートには、防湿の基本的な考え方やシミュレーションの実践的な使い方が詳しく記されているため、日本でも、省エネルギーであるだけではなく、湿気の害がない建物の建設に役に立つことを願っている。

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※1 パッシブハウスとは、ドイツパッシブハウス研究所が規定する性能認定基準(年間冷暖房負荷が15 kWh/㎡など)を満たす省エネルギー住宅である
※2 フラウンホーファー建築物理研究所 熱湿気部門 部長代理
※3 フラウンホーファー建築物理研究所 熱湿気部門 研究員

参考文献
[1] Zirkelbach, Daniel, "Hygrothermische Simulation ‐ Anwendungsm;glichkeiten fur Planer und Sachverstandige," in IAK 2013‐12.
Internationale Baufach‐ und Sachverstandigentagung Ausbau und Fassade, Regensburg, 2013.

 

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